クレスダズラ日誌

PFCS企画のことダラダラ描くよ!

野球大会編六章―決戦前夜―

ーー獅子の月二日 夜 ヴァルホル城内

 

 ヴァルホル城に招かれたダズラ王国の客人は客室に通され、ダズラ王国の客人のみ、小ホールにて食事を取る予定となっていた。
その際、ヴィダルのみ自室へと通され、長年フギンケニッグ家に仕えているメイド長のルメラスに無理やりドレスに着替えさせられていた。

「ねぇ。ルメラス。ちょっとコルセットきつい。」
 不満そうにヴィダルが文句を言うと、ルメラスが苛立った様子でコルセットの紐をきつく絞る。

「何を言うのですかお嬢様。数年ぶりに戻ってきたとおもったら、髪はボサボサ、日焼けはする。それになんですかこの筋肉質な太い腕は!
レディとしての教育はしてきたと思っていた、このルメラス。不覚でしたわ。ここまで御館様に似て野蛮になってしまうなんて……。」

 ルメラスが深いため息とともに、嫌がるヴィダルにクリノリンを巻きつけ、浅黄色のドレスを無理やり着せていく。
ユリの香りの香水を吹き付け、櫛のひっかかる髪にブラシをかけた後、嫌そうな表情をしたままのヴィダルに白粉をはたき、紅を引く。 
 なされるがまま、身支度を整えられたヴィダルは久しぶりのドレス姿でルメラスに促されるがまま、ドラウプニルの部屋へと引きずられるように連れていかれた。

「ルメラス。私もダズラの方でご飯食べるからこんな身支度しなくていいんだって。だから……。」

「だめです。折角お嬢様が戻られたのです。御館様と食事をしていただきます!!」

 動きづらいはずのドレスを颯爽と着こなし、元々の姿勢と身のこなしもあり様になっているヴィダルが、食堂へと行く途中にダズラの客人の宿泊する客室前を通りかかる。
その時、丁度扉が一つ開き、見慣れた白い翼を背負ったハティが出てきたが、ハティが目を丸くしてヴィダルを凝視していた。

「ヴィダルの声がしたから出てきたが……。どこだ。そこの貴族……。はよく似ているが違う?よな?」

 凄まじく懐疑的な目線でヴィダルを見るハティの視線に気づいたヴィダルは深くため息をつく。

「あほかお前。アタシだよ。どこに目つけてんだ。」

「いや。違うだろ。いやそうなのか?お前そんな恰好していると別人にしか見えんぞ。馬子にも衣裳ってやつなのか?
いや、そっちの方が正しい姿なのか?……わからん。」

 驚愕するハティの姿を見て、ヴィダルは困惑するが、確かにいつものガントレットとジャンプスーツ姿からは明らかに違う姿で、化粧までされているということを考える。
その上、ハティは鈍い男だということを思い出し、肩をすくめた。

「確かにアタシは公爵の娘だけどよぉ。ドレスってのは嫌いなんだ。動きづらいんだよこれ。」

「お嬢様。お話はそこまでになさってください。御館様のお部屋まで急ぎますよ?」

 ルメラスが会話を切り上げさせると再び、引きずられるように食堂へとヴィダルは連れていかれていく。

「ちょ、ちょっとまってよ!そんなに親父は急いでんの?」

 もう少し会話をしたかった風にヴィダルは不満を漏らす。それを聞き、ルメラスは当然ばかりに答えた。

「お嬢様?御館様のご性格をお判りでしょう?お腹がすくととても不機嫌になられるのですよ?もう何時ものお食事の時間を過ぎてるので苛立ってらっしゃるとおもうのです。」

 納得した。という様子でヴィダルは頷くと嫌々だった足取りがしっかりしたものになる。

「確かにもう親父の飯の時間過ぎてるな。早く行かねぇとアタシの分まで食われちまう。」

 いつも履いているグリーヴとは違う、ヒールの足音を響かせながら廊下を進み、食堂の扉を執事達が開けると長机の主賓席にドラウプニルは苛立った様子で座っていた。

「ルメラス。着替えなど良いから先に飯だと言っておっただろうが。何をモタモタしておった。早く飯を出せ。ヴィダルも早く席に着け。」

「申し訳ございません。御館様。ですがお嬢様が戻ってこられた以上、フギンケニッグにふさわしい姿をして頂かないと恰好が付きません。」

 頭を下げ、ルメラスが答えるが不機嫌そうにドラウプニルが答える。

「何を言う。フギンケニッグにふさわしい恰好とは鎧姿であろう?フギンケニッグは戦場の家系よ!そのような役に立たんドレスなどどうでも良いわ!のう!ヴィダル!」

「まぁ……。母上も鎧姿でウロウロしてたし、親父もよく鎧でウロウロしてたけど……。それでいいのかよ……。着替えた意味ねぇじゃん。」

 またも深いため息をつくと、横にいたルメラスもやれやれ。といった様子で手を叩く。

「お嬢様がお戻りになられると思ってなかったため、お好きな牛肉ではありませんが、本日は猪肉のスペアリブですわ。運んできなさい!」

 ルメラスが執事達に指示を出すと、やっと食べれるといわんばかりの笑顔をヴィダルに向ける。

「おお!スペアリブだぞ!ヴィダル!わしはこれが好きでのう!しっかし!その姿を見るとブリュンヒルデに似てきたのう。」

 嬉しそうなドラウプニルが、テーブルに並べられる二人分とは思えない量のスペアリブやスープ、サラダやチーズを見て
亡き妻。ブリュンヒルデの面影をヴィダルに見た事を嬉しそうにしていた。

「アタシはどっちかっていうと親父似だと思ってたけど、そんなに母上に似てる?」

「ああ!雰囲気がそっくりだ!あのわしを剣で打ち負かして嫁にはならん!といったあの鼻っ柱の強い雰囲気というのか?本当に似ておるわ。」

 かつて、クレス王国を嫁探しに放浪していたドラウプニルが懐かしそうに、ブリュンヒルデを見つけ、嫁にするため決闘を挑み敗北した時の話を嬉しそうに語りだした。

「わしも大概の男には負けんとおもってたのだがな、あのブリュンヒルデはおっそろしく腕が立ってのう。なんせ剣を振りながらわしに蹴りを入れたり、鞘まで持って殴ってきたからのう。
まさか、あの年頃の娘があそこまで汚いというのか?戦場の剣術を振るうとは思ってなくての、しばらく修行してもう一回挑んでなんとか勝ったが……。
ブリュンヒルデ程のいい女は居なかったわい。」

 遠い目で亡きブリュンヒルデを語るドラウプニルを見て、優しく、厳しかった母の地獄の剣術の特訓をヴィダルは思い出す。

「母上は本当に強かった……。結局一度も勝てないまま病気で死んでしまって悲しかった……。」

「そうじゃのう。わしは後妻を取れと周りがうるさいが、金に汚い貴族の女共は嫌でな。あそこまでフギンケニッグの嫁に相応しい女はもうおらんからの。
子はお前一人しか作れなかったのが残念でしかないよ。妾もブリュンヒルデへの裏切りになりそうで取りたく無くての。割と苦労させるがすまんな。
……湿っぽい話はやめにしよう。飯の準備が整ったようだ。存分に食え。遠慮はいらんぞ。」

 表情に一瞬陰りを作ったドラウプニルが気分を切り替えるかのごとく、目の前のスペアリブの塊を手で掴む。
そう。野蛮人と言われる所以。それはドラウプニルの貴族らしからぬ食事の作法だった。基本的に骨付きの肉は手で掴み食いちぎるのが好きなドラウプニルは、
屋敷に人を呼んでいようがそれは辞めず、むしろ客人にもかぶりつくように勧めていたことだった。
 ヴィダルも昔もそうだったなぁ。と思いながら、スペアリブの骨の部分をつかむと肉を食いちぎる。

「あ。この猪肉美味しい。いいスパイスかかってる!」

 口の周りをソースで汚しながら、ヴィダルが嬉しそうに言う。

「そうじゃろう!ニダヴェリール産の良い香辛料が入ったのでな、使うように指示したんじゃよ。どうじゃ。久しぶりにこんな肉食うじゃろ。」

 ヴィダルとドラウプニルが貴族らしくない様子でガツガツと肉を食べていると、それを見ていたルメラスは頭を抱えた。

「結局、こうなってしまうのですね。やはりこの親子似すぎてますわ……。はぁ……。折角レディに育てて見せようと思っていたのに……。」

 その言葉を無視するように、嬉しそうに肉にかぶりつくヴィダルとドラウプニル

「すっげー久しぶりにこんな胡椒効いた肉食べるよ!ダズラじゃ胡椒高っかいんだよ!」

「そうかそうか。なんなら土産に胡椒を持って帰れ。お前もわしと同じように婿探しの旅に出たんじゃろ?
シグフルド王子は良い子だが、フギンケニッグの女には相応しい男ではないわ。わしが話つけといてやるから、存分に強い男を探してこい!」

 その言葉を聞き、ヴィダルはゴホゴホとむせて咳をする。

「ちょ!ちょっとその話は後で……。ってアタシの家出、探さなかったのって婿探しだと思ってたの!?」

 きょとんとした表情で、皿に盛られたチーズをつまみながらワインを飲んでいたドラウプニルが答える。

「違うのか?もしかしてアレか?やっぱりあの連れていた有翼人の男が婿候補だったりするのか?中々奴は強そうだとは思ったのだが……。
それに有翼人は魔法が使えるじゃろ?有翼人が来てくれたら我が家も魔術が使えるようになるかもしれんし、いいと思うんじゃが。奴はお前より強いのか?」

 顔を真っ赤にしながら、ヴィダルは首をぶんぶんと振る。

「ちょっとまって!確かに……確かにハティはアタシより強いけど!そんなんじゃないから!断じて違うから!」

「ふむ。お前より強いなら十分じゃないか。何が不満なんじゃ?顔もなかなか男前じゃし、魔法無しでも結構腕の立ちそうな出で立ちじゃったし。
一緒に旅しておるんだろ?もうそんな関係なんじゃないのか?別にわしは孫が早く見れればいいから別に構わんのじゃよ?」

 ポンポン飛び出すドラウプニルの爆弾発言に早く立ち去りたい。という気分のままヴィダルは黙り込み、一気にワインを傾ける。

「……。本当に素直じゃないのう。その辺りがブリュンヒルデそっくりじゃわい。」

 ワインを凄い勢いで飲み干しながら、肉とチーズを食べていくヴィダルを見ながら、ドラウプニルはつぶやいた。
顔を酔いで赤くし、恥ずかしさからさらに真っ赤にしたヴィダルはさらに無言で食べ続けていた。
それを見ながら、「やっぱりあの有翼人が婿候補か。」と納得した様子でドラウプニルは肉を平らげ、食後のデザートのフルーツをつまんでいた。
 そこに助け舟を出そうとルメラスがそろそろ食事を終えますかと促し始めた。

「さて、御館様。お嬢様。明日は野球大会です。他大陸の方もいらっしゃる大事な試合です。
親子で敵同士でございますが、そろそろお部屋にお戻りにならないと明日に差し支えますわ。全力で試合に挑む事こそフギンケニッグの誇りでありましょう。さあ。お嬢様。いきますよ。」

「そうか。そうじゃな。ヴィダル。明日は手加減せぬぞ?弟も出るから覚悟しろ。ダズラに敗北を味合わせてやるぞ。このフギンケニッグの名にかけて!」

「助かったよルメラス……。とりあえず親父。明日は覚悟しとけよ?アタシもフギンケニッグの血引いてるんだぜ?」

 ドラウプニルとヴィダルは視線を交わすと、二人してにやりと笑うと自室へと戻り、明日の野球大会へと備えて眠りについた。