クレスダズラ日誌

PFCS企画のことダラダラ描くよ!

野球大会編四章ー出発ー

――獅子の月1日、ダズラ王国王宮。玉座の間。

 きらびやかな玉座の間に通された二人は、呆然としながらつぶやいた。

「……ねぇ、なんでアタシ達こんなとこ居んの?」

「それはあれだろ。賞金稼ぎ組合からお呼びが掛かって王宮に来いって言われたからだろう。」

 ハティは肩をすくめ、周りに居る執事やメイドの姿をした妖怪達に目を向ける。
その中の一人、ねじくれた角を持った壮年のサターニアと目が合い、笑みを返されハティは目を背けた。

「ヴォルヴァ様、ヴィトニルソン様、王のご到着まで今しばらくお待ちください。これは国家からの依頼でございます。
報酬は沢山お出し出来ますし、大変安全な依頼でございますし……。それに貴方方にしかご依頼できないのです。詳しくは王よりお聞きください。」

 そのサターニアの執事――セイ=ロンは笑顔で二人にそう告げると、周りに居る10人の執事達に目配せをする。
ヴィダルはその様子を見ながら腕を組んだ。

「はぁ……。安全で報酬のいい依頼……ねぇ。すっごい嫌な予感する。」

「同感だ。」

 ハティは頷く。そして、執事のうちの一人、ヌワラ=エ=リヤが後ろを振り返り、手をパンパンと二回叩いた。

「スヴァ=ローグ王の到着でございます!」

 その声を聴き、ヴィダルとハティは跪き、コツコツと聞こえるヒールの音を聴く。
そしてそのヒールの音は目の前まで近づくと、大きな声が聞こえた。

「面を上げい!我はスヴァ=ローグ!ダズラの王なり!赤の魔女よ!蒼の闇よ!良く来てくれた!」

 満面の笑みでスヴァ=ローグがヴィダルとハティを二つ名で呼び、二人を普通に立つよう促した後、玉座に座った。

「これは王命である。明後日、クレス王国との野球大会がダグのビフロスト球場である。主達には参加してもらうぞ。」

「や・・野球大会?」
 
 困惑した様子でヴィダルがつぶやいた。

「そうだ。国家の威信をかけて野球大会をするのだ!そしてヴォルヴァ……いやフギンケニッグの娘と言ったほうが良いかな?主にはダズラサイドで出てもらう。
無論、クレスサイドには主の父や親戚が出てくるだろうから、それに対抗するためだ。フギンケニッグ家の運動能力は、呪詛や魔術等でどうこうできるレベルではないからな。」

「えっ!?ちょっとまってください!私の素性バレてたんですか!?」

 ヴィダルが慌てながらスヴァ=ローグに言い返す。

「主は数年で頭角を現しすぎたのだよ。だから素性を調査させてもらった。そしてそのヴィトニルソンの子もな。
我も驚いたよ。あの伝説の横綱“魔狼”の息子が月の子供だとはな。」

「俺のことも調査済みというわけか……。」

 スヴァ=ローグはにやりと嗤う。

「もちろん断ることは許さぬぞ?断り次第フギンケニッグ家に送り届けて恩を売りつけてやるのだ。主が家出した理由も調べておるわ。ふふ……。まことに面白い娘だ。気に入ったぞ。」

 深くため息をつき、ヴィダルは髪の毛をわしわしとかきむしる。

「はぁ……。わかりましたよ。でももう二日しか日にち無いですよ?どうやってここからダグまで行くんですか?」

「ふふふ。黒の貴婦人が良いものを用意してくれたのだ!もうそなたらの分の準備は整えておる。今すぐ出発するぞ!」

 ドヤ顔でスヴァ=ローグは二人に出立を促すと、困り顔の二人と12人の執事達を連れ、王宮の外まで歩いていく。

 その後ろでボソボソとヴィダルはハティに言う。

「どう思う?ハティ……。やっぱ嫌な予感当たったんだけど。ていうか行先ダグでしょ?実家の領地じゃん……。」

「いや……。俺もさっぱりわからん。」

「内緒話はだめですよぉ~。」

 メイド服を着たサターニアの執事、ダージ=リンはにこにこと二人の間に割って入る。

「こらこら。ダージやめなさい。お二人も突然の出立で困られているのですよ。ほら。あそこにある馬車に乗るのですよ。」

 ダージ=リンを諫めながら、セイ=ロンは漆黒の目立つ馬車を指さす。
しかし、その馬車は何かがおかしかった。
馬が馬のような何か。だったのだ。金属製の闇に溶けるかのような漆黒の馬の形をした何か、だった。
目立つのは目の位置に取り付けられた、明かりのように光る眼のような真っ赤なライトのようなものだ。

「これぞ!ライス王国製の最新鋭の品!アルファ馬だ!握り飯一個で10里は走る優れもの!しかも握り飯を与える時間しか休憩時間も要らず休みなしに走り続ける代物である!
馬車の方も最新鋭のエンジンというもののついた、すごく早い速度で走る馬車!これを使えば通常一週間はかかるダグまで1日で到着するのだ!さあ!皆乗り込むぞ!」

 スヴァ=ローグがドヤ顔でヴィダルとハティをその馬車に押し込めながら言う。

「ちょ!ちょっと!あああ!もう!」

「仕方ないだろう。王には従うしかない。」

 あきらめ顔のハティが馬車の座席に座りながら頭を抱えた。

「くっそ……。ミネルヴァの野郎、最近忙しいとか言いながらこんなもん用意してやがったんだな……。」

「さあ!出発だ!行くぞ!!」

 満面の笑みのスヴァ=ローグを見ながらヴィダルとハティは大きくため息をつくのだった。l